一 中田翔哉

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 高一、春の校外学習は、親睦を深めるべく、林間合宿だった。  隣の県の山間にある青少年の家で一泊二日。昼食は一つ目の山を越えた道の駅で各自自由行動、到着後は森の散策。夕飯は生徒らが作る定番のカレー。明くる日は森の中でオリエンテーリング(小雨決行)。そして帰りは近くの観光地でお土産を買うというスケジュール。  麻耶にとっては面倒くさいことばかりだと思う。だが、この行事を楽しみにしている生徒は多く、車内の雰囲気は楽しそうだった。  翔哉と麻耶が最終だったようで、席に着くとすぐに点呼が始まった。  三十六人、全員が出席。  休ませなくて良かったと、翔哉は胸をなでおろす。  ただでさえ出席日数がぎりぎりで、翔哉以外のクラスメイトとはほぼ会話をしないという変人ぶりだ。しかも、クラスの中で居る時は、翔哉から話しかけられるのを嫌がっていた。「悪目立ちするから」という理由らしいが、翔哉としてはやはり納得がいかない。  結局、そのせいで中学時代と変わらず、麻耶はクラスの中で孤立している。 あからさまに悪口を言う生徒も少なくない。だから全員出席の林間合宿で一人休んだりしたら、それこそ悪目立ちは免れなかっただろうと思ったのだ。
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