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――ドクリ
心臓が大きく跳ねた。
翔哉が零した言葉に、恵留の中に得も言われぬ畏れが沸き起こった。
須賀の意地の悪さ、山本の卑しさ、トワの傲慢さ。消えた彼らが持ち合わせていたわかりやすい欠点。でも――と考える。
(私だって、トワを見殺しにしようとした。麻耶に嫉妬した。ショウを庇えなかった。のぞみ先生に苛立った。それ以前に……)
考えれば考えるほど、自分など救われるはずがないと思えてきた。
「だから、とりあえず町を出たの。トンネルに戻る道順を覚えているわけでもないし、バスが目的を果たした後、あの道がそのまま残っているかも不明だけど」
恵留は咄嗟に言い返していた。手にしたペットボトルの水を麻耶の目の前に示す。
「だとしてもよ、この水一本で、何日もしのげるわけはないよね。スマホだってバスの中に置いて来てしまったし」
「す、スマホなら、ほら」
赤井が遠慮がちに手を出してきた。真っ黒な画面の役に立たなくなった彼女のスマホを見て、恵留は盛大なため息を吐く。
「そんなのただの鉄くずじゃん。のぞみ先生も先生なんだから、もう少ししっかりしてくださいよ。つまり、私が言いたいのは、トンネルに戻るにしろ、ここに留まるにしろ、生き延びるための食糧がないってこと! 今はまだお腹もすいていないけど、この先何日もこんな状態が続くなんて、無理でしょ」
「うん、無理」
麻耶が恵留に同意する。
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