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緊張感のない桃香の態度に、肩を落とす。
「いらない、後でもらうわ。まだお腹はすいていないから」
断ると、麻耶と翔哉に意見を仰いだ。
「とりあえず、森に向かったらどうかしら」
「なぜ? あたしは森には入らず、山裾を迂回してトンネルのあった方へ戻った方がいいと思うけど。森の中に何がいるかわからないよ」
意外にも反対され、がっかりした。恵留としては、森に入って、少しでもあの目玉の監視を逃れたい気持ちもあったのだ。
今歩いてきた道は、まるで自分たちの判断を待っているかのように、先で二股に分かれていた。
舗装された道を真っすぐ進めば森。そして右に伸びた道は、轍のある土道だった。森はまるで鎮守の森のようで、奥には拝殿らしき建物の屋根が見えていた。森の先は山。
山を越えたら何があるのだろう――恵留の想像力では、何も思いつかなかった。
「あの山が、生者の世界と死者の世界を隔てているように思う」
麻耶の言葉には重みがあった。
「昔から、どの国でも山は神聖なる地」
「じゃあ、越えたら元の世界に帰れる?」
恵留の言葉は無情にも否定された。
「越えたら死者の国だと思う。地獄か天国かはわからないけど。そう考えるのが普通でしょ。あたしたちは山の裾を歩いて、元のトンネルまで出なきゃ」
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