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恵留と千葉が並んで三叉路から森に向かう道を歩き出した。路面の舗装は樫の木の下で途切れ、その先は土を固めた地道だった。
その大きな樫の木がさわさわと艶のある葉を揺らしている。初めて聞こえた風の音だった。恵留の頬には風を感じてはいないのに、高い位置では風が流れているようだ。
その葉音に安らぎを感じる。
この世界に来てからずっと、雲もないのに曇り空のような、まるで黄砂に覆われているような閉塞的な気分を感じていたのに、森に足を踏み入れると不思議な清々しさに包まれていた。
「空気が変わった?」
思わず口にした。
「そう? 俺には何も感じないけど。ていうか、何もないね」
千葉には感じていないのだ。この爽やかな感じ。まるで自分の中のエネルギーが回復されて行くような感覚。
恵留はここに来て正解だったと感じた。
空を見上げれば、広がった常緑の葉の間から、煌めく陽光がまばゆい。あの目玉の光だとは思えないくらいに、清らかに輝いている。
それほど歩かないうちに鳥居が見えた。石でできたありふれた鳥居には、対の狛犬が鎮座している。
「あれかな、鏑木がくぐるなって言っていたの」
「だね。森の外からは見えなかったのに」
「鏑木ってさ、一度はここに来たことがあるんじゃねってくらいに、この場所に詳しいよな」
確かにそう思う。この森に鳥居があるなんて、誰が思いつくだろう。
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