五 秋山恵留

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「千葉っち、今のうちに逃げよう!」  恵留の脚は彼女らと反対側、鳥居の立つ茂みの方向へと走った。  阿の狛犬の前まで来た時、背後で桃香の悲鳴を聞いた。 (桃香!)  直ちに恵留は逃げ出したことを悔やんだ。  麻耶よりも足の速い桃香は、先頭に立って走って来てくれたのだ。それなのに彼女を見捨てるような真似をした。  ――むしろ桃香を囮にしたのも同然の行為だ。  ついさっき、町で鵺に襲われた時、翔哉を見捨てて逃げた自分を思い出した。 (また同じことをしようとしている)  天を仰ぐと、木漏れ日の中から、あの目玉が恵留を視ていた。 「千葉っちは先に逃げて」  千葉の背中を押す。 「おい、委員長!」  恵留は千葉の手にしていた包丁を奪うと、千葉から離れるように走り出し、さらに声の限り叫んだ。 「化け物! こっちよ、私はこっち!」  反対側の狛犬の前で包丁を振りかざす。 「ほら、来てみなさいよ!」  鳥居を背に叫んだ。追いつかれる前に社に逃げ込もうと算段した。  腐敗した体を持つ怪獣は、恵留の声に反応し巨体を翻した。
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