五 秋山恵留

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「委員長!!」  千葉の声が聞こえた。  恵留の思惑など簡単に覆され、まるで瞬間移動したのかと思うほどのスピードで追いつかれると、鳥居をくぐる前になぎ倒された。手にした包丁が宙を舞う。 「ぐふっ」  弾かれた勢いで、狛犬の土台になっている石の角に上半身を強く打ち付けた。  怪獣の腐った爪で引き裂かれた腹部からはどす黒い血が流れ、すぐに焼けるような痛みが襲って来た。  生理的な涙が血のようにとめどなく流れた。喉の奥からも血がせり上げて来る。動くこともできず、ビクンビクンと痙攣を繰り返す体に、恵留は死を悟った。  息ができない苦しさに酸素を求め、顔をのけ反らせた時、再び空の大きな目と視線が交わる。  ふと、覚悟のようなものが心にストンと落ちて来た。 (見てくれた? 私、今度は逃げなかったよ)  あれから――中学校を卒業してから、和美が高校受験に失敗して自殺を図ったと、風の噂で聞いていた。  彼女の人生を狂わせたのは私だ。  私は裁かれるべき人間だった。
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