五 秋山恵留

27/27
前へ
/225ページ
次へ
「めぐる! しっかりして」  すぐ近くで麻耶の声が聞こえた。 「委員長! 目を開けろ」 「委員長!」 「メグ! メグ!」  皆が駆け寄ってきたのだろうが、瞼は重くて開けられそうにない。何とか声だけを絞り出す。 「ば、化け物は? あいつは」 「メグが追っ払ってくれたよ……いなくなった。メグを襲った勢いで鳥居をくぐった途端、化け物が消えちゃったの」  桃香は私のために泣いてくれるんだね…… 「自分を囮にするなんて、なんで」  翔哉が恵留の体を抱き起した。嬉しかった。これで最期だとしても、後悔はない。  渾身の力をふるって目を開けた。  涙を浮かべた翔哉の顔と、その周りに生き残ったクラスメイト。  恵留は麻耶に向かって言った。 「こ、ここでは……ぬえに殺されたほうが、正解、かもしれない」 「めぐる!」 「だって、ちゃんと死なせてくれる……から」  死は怖くない。死の間際に思う。 「ね、私は麻耶のともだち? ちゃんと、ともだち、なれた?」  ほとんど見えなくなった視界の中で、麻耶が「決まってる、友達だよ」と叫びながら何度も肯いていた。  死は再生への道。あるいは永遠の安らぎ。  最後に息を一つだけ吐いて、真っ暗な世界に身を任せた。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加