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六 赤井希美
三叉路の真ん中で、赤井は翔哉の後ろ姿を茫然と眺めていた。だが、ここに一人取り残される不安が勝って、すぐにその後を追いかけた。
恵留の悲鳴が聞こえたのはほんの少し前。悲鳴が聞こえるや否や、麻耶と桃香が何の躊躇もせず、森に向かって走り出したばかりだ。
続いて桃香の悲鳴が聞こえた。もはや彼女たちに何かが襲い掛かったことは明らかだ。
それなのに、教師であるはずの赤井はただ口に手を当てて震えるしかできないでいた。
――怖がりなのだ。昔から……
ホラー映画は嫌いだった。どれほど成績が良くても、医学部なんて論外ってほどに血を見るのも大嫌いだ。幽霊や呪いの類いも信じたくないのに、つい信じてしまうほど臆病だった。
それなのに、バスで衝撃を感じて以来、次々と想像を超えるレベルの出来事が赤井を襲い、ほとんど気が狂いそうになっていた。
でもこの森の中で休憩しようと提案したのは、ほかならぬ赤井だ。
翔哉の背中を見失わないように、まっすぐ続いた土道をおぼつかない足取りで追った。
ようやく追いついて見たのは、またもや生徒の無残な死だった。
目の前で次々と生徒が死んでいく。
戦場でもない、震災でもない。ただ、遠足バスに乗っただけなのに。
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