一 中田翔哉

2/29
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ
 中学校時代の彼女は、不登校だった。翔哉が気付いた時には、麻耶は彼女のクラスの中で孤立していたのだ。クラスが違っていたとはいえ、麻耶を庇えなかったことを、翔哉は今でも悔やんでいる。  高校に進学してからも、彼女は落第しないぎりぎりの出席日数をキープしている。  翔哉の成績ならば、隣の県の進学校へ行くことも容易だったが、それを蹴って地元の公立高校を選んだのは、ひとえに麻耶の近くで居たかったからだ。  麻耶を見守ることができる学校に通った方が、安心して勉学に励めるというものだ。もちろん、それを麻耶本人に言うつもりはさらさらない。 「ほらほら、さっさと準備しなきゃ、翔哉君まで遅れちゃうでしょ」  尖らせた口を戻すと同時に頬を膨らませた麻耶を、母親が叱咤し、彼女はイヤイヤながら制服に着替え、髪を整えて玄関先に再び現れた。 「いつもにも増して無気力だね」  歩きながら、翔哉はわざとらしく、麻耶の顔を覗き込むようにして言った。 「今朝は切らなかった?」  麻耶が立ち止まってため息を吐いた。 「そんなしょっちゅう切らないわよ。それに最近は見てないから」  彼女には自傷癖があった。彼女曰く、「癖」でも「依存」でもないらしいが。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!