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――麻耶はいわゆる『見える人』である。
翔哉が麻耶のリストカットを見つけたのは中学生の頃。学校に出てこない麻耶を心配して部屋へ押しかけた時だった。
うっかり「何かが見えた」と口にしてしまった彼女を、友人たちがからかい、馬鹿にしたのだと怒っていた。
厄介な地縛霊にも思えたから近づかないように忠告したかっただけなのに、まるで嘘つきの『かまってちゃん』扱いをされたと悔しがっていた。それ以来、友達とは距離を置くようになり、そしていつしか孤立し、彼女は学校に来なくなっていた。
亡霊や幽霊だけでなく、いわゆる『この世』のモノではないだろうと思える『何か』が見える麻耶を支えていたのは祖母だった。その祖母が亡くなって、『見えたもの』を信じてくれる人がいなくなった麻耶がたどり着いた手段がリストカットだったのだ。
麻耶が言うには、鋭い痛みを感じた時、見たものが霧散するように消えるのだとか……
そんな彼女に、翔哉は「切るな」とは言えなかった。今も言えない。翔哉は麻耶の言うことを信じているが、それを共有はできない上に、それらから彼女を護る術もわからないのだから。
『最近は見ていない』――という麻耶の言葉にやや安堵を覚えつつも、不機嫌の原因を探ってみた。
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