一 中田翔哉

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 そんなやり取りをしながら、ダラダラと歩いていたが、徒歩圏内にある高校までは、あっという間に到着した。 「麻耶ちゃん! ショウ! 早く、早く。五分の遅刻よ」  学校の前にずらりと並んだ四台の大型バス。学級委員の秋山恵留(めぐる)が、一番後方のバスの乗降口の前に立って手を振っていた。  どのバスもピカピカに磨かれているのに、自分たちの乗るバスだけが薄汚れて感じるのは、さっき麻耶が発した物騒な言葉のせいだろう。翔哉は嫌な感覚をぐっと呑み下し、恵留に「おはよう」と挨拶をする。  ショートカットの軽やかな髪を耳にかけ、えくぼの愛らしい笑顔で恵留が二人に説明する。 「一番前の席にのぞみ先生が座っているから、補助カバンの持ち込みチェックだけ受けて。あ、リュックは持ち込んじゃダメ。バスのトランクルームに入れて」  はきはきとした話し方に急かされ、麻耶も素直に恵留の言うことに従っている。  恵留は学級委員という立場からなのか、麻耶を登校させようと必死なのだ。  麻耶は麻耶で、ああいう熱い性格は苦手なのだろう。どうしてもうまく振り切ることができないようだ。顔をしかめながらも、恵留に背中を押されてバスのステップを昇った。
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