【時の洞窟】

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これは、ある夏の出来事ー 車を降りると滝の音が聴こえてきた。近くに大きな滝があるのだろう。 「こっち、こっち。」 ここまで運転してくれた虎次郎(こじろう)がそのまま僕たち3人を目的地へと連れて行ってくれる。 30分ほど前、僕たちは虎次郎の家に集まって宅飲みを始めようとしていた。 僕らは高校2、3年生の時に同じクラスでよく一緒につるんでいたが、大学進学を機にバラバラになってしまった。 しかし3ヶ月ほど前に虎次郎から連絡があり、約3年ぶりに彼の家で再開した。 積もる話もあるだろうし、高校の頃の思い出話という最高の酒の肴もある。早速始めようかと買ってきた酒を取り出した矢先、虎次郎はそれを制止した。 「ここで呑むのも悪くはないけど、せっかくだし綺麗なロケーションの所で呑もうぜ。」 彼は高校の頃は吹部に入り、文化祭ではバンドでドラムを叩くなど音楽に夢中だった。そして大学でもバンドサークルに所属している。それ故だろうか。彼の服装はお洒落で、夜の綺麗なスポットも熟知しているのは。今から行く場所もサークルのメンバーと一緒に行った所だという。 高校の頃と変わらず、メガネをかけて芋臭い僕とは人生経験の差が開いているのを実感せずにはいられない。 しかし一方で、芯の部分は良い意味で変わっておらず、話し心地は最高のままだ。 そして彼は車を出してくれた。その道中、車に流れるプレイリストは、僕の聞いたことある曲と無いものが半々くらいだったが、いずれも魅力的でセンスを感じた。僕は後部座席で、知ってる曲が流れた時は軽くリズムを取った。 だが、助手席に座る高成(たかなり)は全曲知っていたようで、運転する虎次郎と一緒に口ずさんでいた。彼とは高校の時、部活も一緒で弓道部だった。もちろん一緒なのは弓道部に所属していたという点だけだ。彼は部長で、僕は平社員。腕前ももちろん天と地の差だった。そのため、大学では英会話サークルという無難な者を選んだ僕に対し、彼は弓道を続けた。 そして音楽に揺られ、気づけば到着していた。 「こっち、こっち。」 虎次郎の声に従って進んでいくと、洞窟の入り口があった。 「え、この中?」 僕の弱弱しい声は滝音に消されて虎次郎には届かなかったようで、彼は歩みを止めることはなかった。 「まあ、とりあえずついて行ってみるか。」 近くで聞いていた高成が僕の肩に軽く触れ、闇へ進んでいく。置いていかれまいと僕も進んだ。 するとすぐに、開けた場所に出た。そこには荘厳な滝が流れていた。また、洞窟の上部には大きな穴が空いており、星空が覗いていた。 「おっ、夏の大三角形や。」 僕の後ろをついてきた慧(さとし)が呟いた。彼は天文に詳しく、高校でも地学をとっていた。もちろん僕らは文系なので、地学基礎ではあったが。そして中学生以来、地学に触れていない僕は全く分からず、聞き返した。 「え、どれ?」 「あれとあれとあれ。結ぶとほら。三角形でしょ。」 「なるほどね〜。」 もちろん、これだけではなく、彼は他にも教えてくれた。 慧はとにかく博識で、英語はもちろん、韓国語、ドイツ語、スペイン語を高校のうちにある程度は話せていた。大学では中国語を勉強しているらしい。以前、どこでそんなに学んだのか聞いたら、ラジオとかでやってるのを聞いて憶えたのだと答えてくれた。 他にも、ユーモアもあり、僕がくだらないダジャレを言うと、一枚上手の返答を返してくれるので、師匠と読んでいる。 僕たちは綺麗な夜空にしばらく見惚れた後、持ってきた酒で乾杯した。 綺麗なロケーションと言っていたのでかなりハードルが上がっていたが、この滝と満点の星空はそれを優に超えてきた。 「いや〜、めっちゃいい場所やな。」 「だろ!」 僕と同じことを考えていたのだろう。高成が讃えると虎次郎は自慢げに返した。横では慧も頷いている。 僕らは思い出話に花を咲かせながらゆっくりとお酒を嗜んでいたので、あまり酔いは回らなかった。 虎次郎が洞窟の闇を眺めた後、こちらを振り返って口角を上げた。 「ちょっと肝試ししようぜ。」 「アリやな。」 訂正。まあまあ酔っているらしい。 洞窟は、僕らが入ってきた反対方向にもまだ続いており、前回サークルメンバーと来た時はこれ以上は進まなかったという。そのため彼もこの奥は知らないらしい。 僕らは一度車に戻って懐中電灯を持ってきて進み出した。その際、スマホはライト機能があるからという理由で置いていこうと決まった。 30分ほど歩いたが、ずっと一本道で退屈な闇が続いていた。引き返そうという意見も出たが、せっかくここまで進んだのだから最後まで行ってみたいという意見が若干勝った。 それからさらに30分ほど進んだ頃、目の前にかすかな光が差した。 僕らは一斉に走り出した。
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