メンセツ

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 斉木俊哉(さいき としや)は、今しがた届いたメールに目を通し、結果を確認するとすぐさま閉じた。何度見たかも分からない連絡に、もはや何の感情も湧かなかった。  現職では業務の多さや責任の重さに対して、待遇が良くない。似たような仕事をしている他の友人の年収を聞いて飛び上がるほどだった。自分の年収の低さに気づかされて、という意味で。  そんな話を聞いたら、いまの職場で働き続けるのが馬鹿らしくなってしまい、転職エージェントサービスに登録し、転職活動を始めることにした。サービス登録、エージェントとの面談を経て、随時、求人を紹介してもらっている。  何十社もの企業に応募して、やっと一社の内定を勝ち取れるという話をエージェントから聞かされていた。そのため、あまり選り好みはしすぎず、ある程度の自己基準を満たした企業には積極的に応募するようにしている。  結果は、芳しくない。今しがた確認した不採用メールが、この半月の間、毎日のように届いている。書類選考すら通過しない日々を過ごすと、自分は価値が無いのではないか、いまの低賃金労働が関の山なのではないか、とネガティブ思考になっていく。その内、何の感情も湧かなくなる。 「生きるって苦行だな……」  ため息が出る。肺から漏れ出した空気と一緒に、幸も逃げていった気がする。逃げた幸を取り戻そうと息を吸ったタイミングで、新着メール。どうせまた不採用メールだろう、と思ったが、念のために開いてみる。
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