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だけど、少しずつ距離が遠くなっていった。
初めてそれを感じたのは、大学卒業して事務所に所属し、俳優デビューした日華さんが舞台に立った時。
ほとんど台詞のない端役だったけれど、一つ一つの台詞に魂を込めて真摯に演じる姿が印象的だった。
もうプロの役者さんになっていた。
それから映画やドラマにも出演するようになった。
刑事ドラマの犯人役を演じた時は、鬼気迫る猟奇的な演技が大変話題になった。
そこからしばらくは悪人を演じることが多く、世間にもそのイメージが定着しつつあった。
陽生日華の名が一気に広まったのは、ある恋愛ドラマに出演してからだ。
ヒロインに恋する当て馬男子を演じたのだが、これが大当たりだった。一途に、時に強引にヒロインを愛し、でも報われない切なさと色気を醸し出して見事に女子のハートを鷲掴みにした。
そこから「実はものすごくイケメン」だと世間に知れ渡り、朝ドラの出演が一気に彼を人気俳優へと押し上げた。
そう、いつの間にか彼は雲の上の人になってしまっていた。
日華さんはどんなに人気者になっても、私への愛は変わらなかった。
付き合った頃と同じように、優しくて甘くて私のことを大切にしてくれる。
だけど、有名になる実力派俳優の彼と何も持たない平凡な私。
壁を感じずにはいられなかった。
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