3296人が本棚に入れています
本棚に追加
高級外車なことに気づいてすごく気が引けたけど、妃乃は「乗って、乗って」と軽い調子だった。
最終的に星來が自分から乗ってしまったので、慌てて抱っこしてチャイルドシートに乗せる。
多分だけど、このチャイルドシートも高級品なのでは?
「最初に使うのが星來でごめんね……」
「いーの、いーの。気にしないで」
妃乃はこう見えて天王寺グループという大企業の社長令嬢で、かなりのセレブだ。
その割に本人はとても庶民派だけれど。
「送ってくれてありがとうございました」
「またね、あかり」
「またね。気をつけてね、妃乃。元気な赤ちゃん楽しみにしてるから」
「ありがとう!」
すっかり眠ってしまった星來を抱っこしたまま、見えなくなるまで車を見送った。
妃乃はとても幸せそうだった。
妊娠してから旦那が過保護すぎて困る、なんてぼやいていたけど、大事にされている証拠だ。
私がいるからなのか旦那さんはあまり喋らなかったけど、言葉の端々に妃乃を気遣う優しさが感じられた。
良い人に出会えてよかったなと心から思った。
羨ましくない、と言えば嘘になる。
星來に父親がいないこと、申し訳なくなる気持ちもある。
その分二人分以上の愛情を注いでいるつもりだけど、きっと寂しい思いもさせていると思う。
それでも私は、星來を一人で産んだことを後悔したことは一度もない。
最初のコメントを投稿しよう!