秘密の恋と別れ

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秘密の恋と別れ

* * *  彼と出会ったのは、大学1年の時だった。  女子大に進学した私はインカレの演劇サークルの体験に友達と訪れた。  そこで彼に出会った。  陽生(ひなせ)日華(にちか)先輩。  私より2個上の3年生。ただ浪人して入ったらしく、年は3つ上の22歳だった。  初めて会った陽生先輩は、隅っこで一人で台本読みをしていた。  その時の感情の込め方、台詞回し、体全てを使って表現する姿に目を奪われた。  まるで魂が乗り移ったような迫力のある演技。とても素人の大学生とは思えなかった。  だけど、当時の陽生先輩は主役を張るような役者ではなかった。  演技をしている時以外は、無表情で陰気な雰囲気で他の人ともあまり喋らない。  とても綺麗な顔立ちをしているけれど、ぶっきらぼうで女子にはあまりモテてはいなかったようだ。  いつも何を考えているのかわからない、ミステリアスな人だと囁かれてもいた。  でも、私は陽生先輩が一番カッコいいと思っていたし、一番憧れていた。  私は演劇サークルに入り、裏方担当として関わるようになる。  そうは言っても、サークルに入ってしばらくは陽生先輩と一度も話す機会はなかった。  初めて会話したのは、サークルの飲み会でのこと。  3年生の土田(つちだ)先輩が私の隣に座り、話しかけてきた。 「あかりちゃんってさぁ、月って書くんだよね」 「あ、はい。月と書いてあかりと読みます」 「かわいい名前だよね」 「そうですかね?ありがとうございます」
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