秘密の恋と別れ

2/10
前へ
/194ページ
次へ
 正直に言うと、土田先輩はやたらと距離が近くてちょっと苦手に思っていた。 「あかりちゃんって彼氏いるの?」 「いません」 「今までは?」 「いません……」 「マジで?そんなにかわいいのに?」 「はあ……」 「じゃあさ……俺ら付き合っちゃう?」  急に耳元で囁かれ、ゾワッと全身に寒気が走った。  その直後、するりと指を絡ませてきて、更に鳥肌が立つ。  怖い、気持ち悪い。  なのに声が出せず、体が強張って逃げ出すこともできなかった。 「土田、やめろ」  パーン!という乾いた音が響いたと同時に、握られていた手が離される。  そこにいたのは、丸めた台本で土田先輩の頭を叩いたであろう、陽生先輩だった。 「セクハラするな、この酔っ払いが」  そう言って陽生先輩は私を立たせて、その場から連れ出してくれた。 「大丈夫だった?ごめん、あいつ酔っ払ってただけだから」 「……っ」  私を気遣ってくれる優しい言葉に、思わず涙が溢れた。  急に泣き出した私を見て、陽生先輩はちょっとびっくりしたように目を丸くする。 「怖かった?」 「いえ、うれしくて……助けてくれてありがとうございました……っ」 「いや、別に……」 「助けてくれたのが、陽生先輩で嬉しかったです……」
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3297人が本棚に入れています
本棚に追加