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「はぁ〜……」
「っご、ごめんね! そ、その、部屋は、私がなんとかするから!」
「は?」
「居住区にするならどこの地区が便利? ほ、ほら学校とかバイトとか、あるでしょう? あのバーの近くがいいのかな? あ、あああと! 駅近がいいよねやっぱり! スーパーコンビニも近くて、明るい人通りのあるところ!」
「え、ちょ……何言って」
「部屋はどれくらいの広さがほしい? キッチンダイニングは完全別? あ、家財道具にも困るよね……ベッド派? 布団派? だ、大丈夫! 貯金を切崩せばなんとか」
「っ、待てって!」
あたふたしながらスマホを操作する私の腕を野分くんが掴んだ。それに驚いて思わずスマホが手から飛ぶ。
ゴトッ…
鈍い音を立てて落ちたスマホを拾うことも、ましてや見ることもできない程に、彼の真剣な目に囚われてしまった。
「……家なら自分で探しますよ。とりあえず諸々の保険代が入るまではどこかに間借りするかホテル暮らしするかって思ってたんです。その時にここに住めばってあなたに言われたので……まぁ、酔っぱらいの言うことを信じた俺がいけないんすよ」
「だから、あなたがこんなこと調べなくていいんです」と言って私のスマホを拾い上げた。画面には賃貸住宅情報が映し出されている。
「っ、あ、あの!」
「まぁ居候代もいらないって言うから、正直ラッキーって思ってたんですよ。甘い話には裏があるって、理解しきれてなかった俺が悪いんで」
「いや、ま、まって!」
「今日は帰ります。あー、ちゃんとホテルとるんで安心してください。迷惑かけてすみませんでした」
そう頭を下げる彼を見て、全身から汗が吹き出した。何をやってるんだ私は。石油をほっている場合か。こんな幼気な青年に自分が悪いだなんて言わせてどうする。どう考えても全面的に私が悪いのに。
「じゃあ失礼しま「ま、まってってば!」……は?」
鞄を持って立ち上がろうとする彼の腕を今度は私が掴み取る。
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