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「荷物ってそれだけ?」
「え? あ、はい。あとは水没しちゃって、取り敢えず救い出せたやつだけを……まぁ貴重品は無事だったんで」
外で見たときはなんて大荷物だと思ったけど、これが持ち物全てと言われると本当に心許ない量だ。住む家を突如無くすなんて、どれほど心細いことか。なのに着の身着のままやってきた彼に別の家を当てがおうとすふなんて。どれだけ私は彼を陥れたら気が済むのか。彼の寂しさや心虚しさをどこまでも無視して、大人にもなって、なんとも情けない。
こういう時に手を差し伸べられる人間にならなければだめだろう。現に彼は、それが周りに言われたものであっても、私を少なからず信頼してここまで来たんだ。フライパンなんか背負って、寒い外で待っていてくれたんだ。
悪いことをしたと思うなら別の星に逃げてないで、彼を救うことに全力を注げ。
「……余ってる部屋はあるにはあるの」
「? はぁ」
「この上に私の寝室と仕事部屋があって。それとあと2部屋空いてる。掃除は割と好きでこまめにしてるから、来客用の布団を出せばすぐにでも寝床は作れるよ。ただ……」
「ただ?」
「ついてきて」
この部屋は親戚価格で安値と言っても、それなりの値段はした。でも切り詰めれば生活できない程ではなかったから、ローンを組んで買い取ったのだ。そこまでしてこの部屋に決めたのには理由が二つある。一つはセキュリティの万全さだ。エントランスにはコンシェルジュ付で、なんとも言い難い快適さと安全性が確保されている。
それからもう一つ、それは……
…ガチャ……
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