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「……で、環はなんで家に帰ってないわけ?」
「わざわざ呼び出したと思ったら、そんな話? 楓ちゃん暇なの?」
野分くんが家に住むようになって2週間。彼とはあの日以降一度も顔を合わせていない。
「呼び出すでしょ。マスターも心配してるわよ。どこで寝泊まりしてるんだろうって」
「毎日ちゃんと帰ってるよ」
「野分くんが学校に行ってる間に荷物取りに行ってるだけでしょ? それを帰ってるとは言わないわ」
「家無くした幼気な青年を、これ以上不安にさせたくないのよ」
「あんたがどこにいるのか分からなくて心配だって言ってたのは、その幼気な青年よ」
「…………」
昼休憩のカフェにしては冷たい空気が漂っている。私たちの周りだけ。
「あんたのことだから、忘れてたこととか変に絡んだこととか、くだらないこと気にして穴深く潜りたいとか思ってんのかもしれないけど」
図星でしかない指摘に思わず眉間にシワが寄る。
「あの子だって、あんたん家でいいって納得した上で住みついたんだから、何もそこまで会わないように徹底することはないでしょう?」
「まぁ、納得というよりは妥協だろうけど」なんてトドメをさしてくる張本人は優雅にコーヒーを飲んでいる。諭しに来たのか傷つけに来たのか分かったもんじゃないな。
「確かに気まずさはあれど、なにもそれだけじゃないよ」
「じゃあなによ」
「あ、あの子」
「ん? なに?」
本当に衝撃だったのだ。あの場は年上の女性の意地にかけてにっこり笑ってやり過ごしたが、その日の夜は眠れなかった。
「あの子、っ! 未成年だったのよ!」
「は?」
ー19っす。あ、もう少しでハタチになるんですけどー
若いとは思っていたけど、まさか未成年だとは思わない。親戚のおじさんであるらしいマスターが私の身元を保証してくれてるから今があるものの、彼のご両親からすれば、上京した息子の家が水没したというだけでも心配なのに、居候先が見ず知らずの、しかも飲んだくれ女の家なんて問題しか感じないだろう。私が親なら迎えに行ってる。
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