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彼はリビングの方へ行ったので、私は手を洗ってから洗面所とも繋がっているキッチンへそのまま入る。ここは私も2週間触れていなかったがキレイなままだ。若干物の位置が変わっているので彼もたまに自炊していたのだろう。今どきの男の子なのに大したもんね、と感心しながら常時冷やしてある水のペットボトルを取り出そうと冷蔵庫を開けた。そして目を見開く。次に冷凍庫の中を確認して、慌ててキッチンからダイニングに移動した。テーブルの上にはしっかりと2人前がキレイに、そして美味しそうに並んでいる。
「まさか、いつも作ってくれてたの……?」
「……そんなことないですよ。今日はたまたま」
この子は嘘がつけないのだろうか、クールな面持ちを崩さないけれど現状が言葉と真逆であることを伝えてくる。私がじっと見つめると、クールの仮面が剥がれてきて妙にあたふたし始めるところもなかなか愛らしい間違えた、怪しい。
冷蔵庫の中はタッパーの山だった。ご丁寧に日付まで書いて、出来上がった料理から浸け置きのお肉までキレイに整頓して並んでいた。次に開けた冷凍庫にも、私が買っておいたアイスの横にこちらもキレイに作り置きが並んでいたのだ。これはたまの自炊なんてものじゃないし、一人分とも思えない量だ。
「楓ちゃんと連絡取ってたんじゃないの?」
「かえで? 深山さんのことですか? あなたと会った夜以来一度も会ってないですけど」
「俺、あの日以降夜に店入ってないですし」なんて首を傾げる野分くんもかわいいが、彼がほんとに楓ちゃんと連絡をとっていなかったのなら、尚の事驚きしかない。冷蔵庫の中の様子といい、今日のテーブルの上とい、つまり彼は、これを毎日――
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