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 こんなこと私は望んでいなかったし、彼だってしなくてよかったのだ。彼料理が好きなら自分の分を好きに用意して、キッチン使いたきゃ勝手にしたらよかったのに。  この家はただの暖かい寝床で、遊びに行ったりバイトに行ったり、好きなように過ごせばいい。毎日毎日いつ帰るかも分からない家主を待ってご飯を作るなんて、しなくてよかったのだ。  私は玄関に置きっぱなしだった鞄から手持ちのお金を取り出して彼に渡した。 「今度からこれ使って。定期的に渡すから」 「は……? っ、俺そんなつもりじゃ!」 「あー! ちがうの、ごめん。お金で解決したいわけじゃなくて……その」  彼には打算とかそんなものはなくて、ただ世話になっているお礼だとか、そういう純粋な気持ちで行っていたことなんだろう。だから今この家には優しさとかいう温かいものが溢れているのだ。 「?」 「今ちょうど繁忙期で……遅くなるけど、毎日ちゃんと夜には帰ってくるから。冷蔵庫の作りおき、私ももらっていい? その分の食費と思って」 「何言ってんの。確かに、あなたにも食べてもらえたらと思ったけど。俺が勝手にやってることだから」 「社会人が10代の子の財布にお世話になるわけにはいかないのよ。ちょっとは見栄張らせて」  ついでに、なけなしの名誉も挽回させて。 「それと、もっと野分くんのこと教えてよ」 「俺のこと? 別に何もないですけど」 「調理師専門学校ってどんなことやってるの? あーまって! ご飯食べながら、ね?」 「……まぁ、もうできてるから……はぁ、じゃあ一緒に食べましょう」  一緒に、と言われることがどれだけ嬉しいことか、彼は分かっているのか。彼の作った美味しいご飯を、優しい彼と一緒に食べる時間は暖かさで満ち溢れていた。 「……楓ちゃんにも連絡しとくか」 「え? なんです?」 「なんにもー」 『ほら、帰ってよかったでしょ』 「美味しいご飯とかわいい男の子が待ってました」 『本音がだだ漏れよ、ど変態』 「ほんとにやばいと思う。理性が持たない」 『ニュースにだけはならないでね』
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