ホッピーと去来する半生

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

ホッピーと去来する半生

ホッピーと去来する半生 大衆酒場の赤提灯。 その脇に吊るされた、電気式虫鳥籠。 バチバチと音が鳴るたびに、ひとつ、またひとつと、ショウジョウバエの命が消える。 はしご酒のサラリーマンは、今日もひとりきり。 赤提灯に誘われて、のれんをくぐる様はまさにショウジョウバエ。 しかし、誰が笑おうか? 血反吐吐きながら闘い終えた至極のひと時。 彼の生き甲斐を侮辱する者はいない。 皆、同じだから。 私は今日もホッピーを飲む。 安く酔うための策略を、サラリーマン達は心得ている。 私の定石は、ソトいち、ナカさんである。 ところが強者も居る。 隣でゴールデンバッドを燻らせるサラリーマンは、ソトいち、ナカろくである。 即ち、中ジョッキの8割がキンミヤ焼酎である。 それはホッピーと言う名の、甲類焼酎プラスワン。 それが、彼なりのハッピータイム。 1日が終わろうとしている。 痛風を気にかけるサラリーマンは、今夜もプリン体ゼロのホッピーを呑みながら、もつ煮としらす和えと、数の子やイクラ漬け、挙げ句の果てにレバー焼きを肴に、初夏の香りを記憶に刻む。 いいのか… それでいいのか… いや、それでいいのだ! 思考を凌駕する、夏前の夕暮れパラドクス。 おわり。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!