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ホッピーと去来する半生
ホッピーと去来する半生
大衆酒場の赤提灯。
その脇に吊るされた、電気式虫鳥籠。
バチバチと音が鳴るたびに、ひとつ、またひとつと、ショウジョウバエの命が消える。
はしご酒のサラリーマンは、今日もひとりきり。
赤提灯に誘われて、のれんをくぐる様はまさにショウジョウバエ。
しかし、誰が笑おうか?
血反吐吐きながら闘い終えた至極のひと時。
彼の生き甲斐を侮辱する者はいない。
皆、同じだから。
私は今日もホッピーを飲む。
安く酔うための策略を、サラリーマン達は心得ている。
私の定石は、ソトいち、ナカさんである。
ところが強者も居る。
隣でゴールデンバッドを燻らせるサラリーマンは、ソトいち、ナカろくである。
即ち、中ジョッキの8割がキンミヤ焼酎である。
それはホッピーと言う名の、甲類焼酎プラスワン。
それが、彼なりのハッピータイム。
1日が終わろうとしている。
痛風を気にかけるサラリーマンは、今夜もプリン体ゼロのホッピーを呑みながら、もつ煮としらす和えと、数の子やイクラ漬け、挙げ句の果てにレバー焼きを肴に、初夏の香りを記憶に刻む。
いいのか…
それでいいのか…
いや、それでいいのだ!
思考を凌駕する、夏前の夕暮れパラドクス。
おわり。
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