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またひとりになってしまった。
私だって、できることなら純粋にひとを好きになりたい。
だけど、それができない。
スリルのない恋愛は退屈してしまう。
私を本気にしてくれる相手はどこにいるのだろう?
まっすぐ帰る気にもなれず、私は夜の街を歩いた。
すると、何組かのカップルとすれ違った。
果たしてこのうち何組が純粋な恋人同士なのだろう?
不倫、浮気、セフレ、様々な男女の関係がある中で、お互いがお互いのことだけを想い、寄り添い、恋人になれることは奇跡だと私は思う。
きっと、そんな奇跡私には起こらない。
行く宛てもなく歩いていたはずなのに、気づけば行きつけのバーの前に居た。
私は冒険も出来ないらしい。
身も心も疲れ果てていた私は、癒しを求めてバーの扉を開けた。
「いらっしゃいませ。」
聞きなれたマスターの優しい声。
「マスター、久しぶり。」
「萌さん、こんばんは。」
私はマスターと挨拶を交わすと、カウンター席に座った。
不意に横を見ると、同じくカウンター席でひとり酒を嗜んでいる男性が居た。
薄暗くて顔はよく見えないが、清潔感のあるスーツを身にまとい、この場にも馴染んでいる。
飲んでいるお酒はなんだろう?
「萌さん、何にしましょうか?」
私としたことが。
男性に見惚れてしまった。
数時間前に浮気相手と別れたばかりだというのに。
今日は癒しを求めにここに来た訳であって、寂しさを埋めてもらう相手を探しに来た訳では無い。
「テキーラ・サンライズを頂こうかしら。」
そういう夜は、強いお酒に限る。
私はマスターからカクテルを受け取ると、ゆっくりと口へと運んだ。
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