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「麻美先輩、こんにちは。お加減いかがです?」
病室のスライドドアが開くと、理香が心配そうに入ってきた。
私は大層な出血だったらしいし、昨日は麻酔が抜けても眠くて仕方なかった。現場におって、手術後も付き添ってくれた理香は怖かったと思う。目の前で人が死ぬんは、どないな人でも慣れるもんやない。
「えらい心配かけたなあ。傷口はじくじく痛むけど、先生が痛み止めくれとるから大分楽になったよ。もう明日からリハビリやて。二日後に退院。病院もせっかちやねえ。ま、重大な病気でもないし、通院でええそうや。痛くても動かさんと、肩が動かなくなるよって、無理してでも普通に動かせ言うてたわ。無理して普通にって、どっちやねんて感じよね」
おどけて言うと、理香も安堵したように笑った。
「傷痕は残っちゃう感じですか? 先生の話だとかなり深く刺さってたらしいですけど」
私は包帯が厚く巻かれたとこを擦ってみせる。
「まあ完全に元通りとはいかないみたい。火傷の痕みたいなモンは消えんらしいよ。けど先生は運が良かった言うとった。あと2ミリずれてたら深刻だったとね。そう言われると、琴吹利奈に感謝すべきか恨むべきか悩むわ」
理香は白いレジ袋に入った見舞品らしきものをベッドに置き、それを一つ一つ取り出していく。ペットボトルの紅茶に、ジュースに、チーズ蒸しパンに、皮を剥いてきたリンゴ。
「その琴吹利奈って、美沙のこと⋯ですよね?」
困ったように理香が見つめてくる。そろそろミサって誰か教えてもらおか。
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