優しい観客と永恋の忘音

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自殺を図る人は、とてつもない苦しみの中におる。それは他人が推し量れる域を遥かに超えて、本人にとっては地獄の底の沼の底のさらに底を辿るような闇の中。 けど、確実な死を望むなら、どうあっても助からない方法はいくつもある。そして1%も生きない選択をしたなら、小学生でも実行できる。 生き残る可能性は、そこに小さな光を求めたときに出現する。 これ以上苦しみたくない人が、まだほんの少しでも幸せなときに死にたいと思うことは止められへん。それでも、そう思うたときはすでに少しも幸せやない。だから思考が死に直結して、その中に無言の声を残す。 『助けて』と──。 誰かにその声を拾ってほしくて、誰かに温かく包んでほしくて、わずかに生き残れる揺らぎがある自殺を図る。未遂の結果生き残っても、より深い闇から抜け出せん。そうやって何かへの依存を覚える。私が(みん)(ざい)に頼るようになったのもこの理屈があった。 思考が死に結びつく人は、生きることや希望に対して鈍感で、死ぬことや絶望に対して敏感で、素直な『好き』さえ躊躇(ためら)うようになる。 仮に美沙が早馬先輩と結ばれないことを苦悩としていたなら、先輩と結ばれた私を恨み憎むんは理解できる。 そして凄まじい怒りを抱え、それが美沙自身を傷つけていたなら、私を殺すことがあの子にとっての復讐となっても自然なことかもしれへん。
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