優しい観客と永恋の忘音

6/9

36人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「⋯麻美先輩は、美沙のことも守ろうとするんですね。今、そんな顔してました」 理香に言われ、私は吐息がてらに頷く。 「ホンマなら仲良うできるはずやったのに、と思うてな。私が美沙に認められる女やなかったって落ち込んどる。直接話せたらええんやけど、あの子は警察に追われとるやろ。のこのこ出てくるとも思えんし、どうしたもんやろか」 間接的でも、私がどれだけ早馬先輩を想うとるか伝えられたらええねんけど。 「悪いのは美沙じゃないですか。先輩は何も悪くないです。ボウガンで撃たれた被害者なんだから、逮捕されるのを望むべきじゃないですか」 ホンマにそうやろか。たとえ罰が下されても、あの子の心の闇は救えへん。むしろ余計に自分を追い込んで、苦しゅうなるんが目に見えとる。 「あの子は色々悪質やからな。私は示談するなら応じるし、処罰感情もないけど、おそらく不起訴にはならへんやろ。前科がつくんは免れん」 「え、示談に応じちゃうんですか!?」 「当然、応じるよ」 言うと理香は、怒ったように私を見よった。 「そんなの甘過ぎ! 罰を受けたって更生しない人いっぱいですよ! 表面だけ謝罪すれば許されるから、日本は被害者泣き寝入りの国なんじゃないですか!」 この子はチャラけとるようで現実をよう知っとる。ホンマにこの国は、加害者救済に重きを置き過ぎて、被害者救済を軽んじとるからなあ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加