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問題行動
西本には問題行動があった。
現在、担任の福田先生が担当する現代文の授業中。
20代後半の福田先生は爽やかで話しかけやすく、生徒一人一人に対して親身に寄り添ってくれる人気のある教師だ。時折、とても疲れている雰囲気を醸し出すときがあるのが気になるが、大人というのは慢性的に疲れている存在なのだろう。僕も、やがては大人になるから覚悟しておかなければ。
で、今の教室の雰囲気的に、西本がいつもの問題行動をして福田先生を怒らせる数十秒前ってところだ。
「玲奈、玲奈っ、描くのやめなって」
真由が、隣の席の西本に注意する。しかし、その声は西本には届いていない。西本は福田先生の顔をじっと見つめながら、ノートにカリカリと福田先生の似顔絵を描いている。
いつものように僕を含め、クラスメイトのほとんどが福田先生と西本を交互に観察していた。
「西本さん!」普段は穏やかな福田先生が西本の席に近づき、ノートを見ながら声を荒げる。
「あ……はいっ!」少し遅れて西本が返事をした。
「なぜ、繰り返し注意してもやめないんですか?」
「だって、私は……先生が大好きだから」西本が幸せそうな表情をする。
「西本さん、この授業が終わったら職員室に来て下さい」
「どうしてですか?」
「……わからないかな? 僕がいくら言っても授業と関係ないことをするのをやめないからです」
「ちゃんと先生の話を聞きながら絵を描いてるんで、まったく問題ないです。それに私は、かなり頭がいいし」
その自信満々に言い切る西本の言葉で、教室が静かになった。
そこで、「その通り! テストの結果さえよければ問題なし!」と急にお調子者の芝山君が叫び教室全体に笑いが起きた。
「現代文と美術を同時に勉強できる能力があるんだから、問題なし!」気づいたときには僕も西本と柴山君に加勢していた。
真由の方を見ると、その目つきで明らかに怒っているのがわかった。
しかし、男子生徒たちが「問題なし!」「西本さんは可愛いから問題なし!」「とにかく問題なし!」と次々に西本の味方をする。
「ちょっと、このクラスおかしいから!」ついに耐えきれなくなった真由が叫ぶが、その声は「問題なし!」コールにかき消される。
「うーっ! お前ら、黙れーっ!」福田先生が怒鳴り、困り果てて天井を見つめる。
この騒ぎを経て、僕は西本にますます惹かれていった。やはり彼女は、僕だけじゃなく男子生徒みんなの憧れ。特別な存在なのだ。
パニックに陥る福田先生を見つめながら、西本はずっと恍惚の表情を浮かべていた。
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