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告白
部活を終えた真由に、うちの近所の小さな公園まで来てもらった。幼い頃はこの公園でずいぶん真由と遊んだものだ。
「あー、部活疲れたーっ」と、言葉のわりには元気そうな真由が歩いてくる。
「体力ねーな」
「帰宅部に言われたくない」
「帰宅部もなかなかハードなんだよ」
「一体、どのあたりがハードなんだか。で、話って?」
真由の顔がこわばった。
「真剣に聞いてくれ」
「も、もちろん、ちゃんと真剣に聞くよ」
「西本のことなんだけど」
「あ、話って玲奈のことなんだ」
真由は残念そうに下を向いた。
「まさか告白されると思ってた?」
「そんなわけないでしょ! ほら、さっさと話を続けて!」
顔が真っ赤だ。
「実は……」
「玲奈のことが好きなんだよね」と真由が弱々しい声を出した。
「知ってたのか?」
「とっくに知ってた」
「さすが幼馴染」
一緒に過ごした日々を走馬灯のように思い出す。
「ということは、今日の本題は恋愛相談か。玲奈とお近づきになりたーい、っていう」
「いや、違う。話したいことっていうのは簡単にいうと、西本を裏切ってほしいってことなんだ」
「え? なんで? 意味がわかんないんだけど」
真由は混乱しているが、僕は構わず話し続けることにした。全部を打ち明けるつもりで呼び出したのだから。
「演技をして徹底的に怒らせてほしいんだよ。西本が真由のことを大嫌いになるくらい、怒り狂うように仕向けるんだ」
「……どういうこと? 耕太、急にどうしたの? わけわかんないこと言っちゃって」
「大山先生に向かって怒鳴ったときの美しい西本の顔を見ただろ? 隣の席だからよく見えたはずだ。怒りの感情を爆発させたときの西本の表情は、まさに芸術だった。そう思わないか?」
「え? あの......」
「驚いた顔をして見てたよな。それは、あまりの美しさに見とれていたんだろ?」
「は? そんなわけないし。あのさ……耕太……怖いよ。……私の知っている耕太じゃない!」
真由は叫び、怯えた様子で後ずさる。
公園を通りかかった親子連れがこっちを見て足早に去っていった。母親と小学校1、2年生ぐらいの男の子。その男の子は学校で好きな子にかまってもらうために怒らせるようなことをしているのだろうか、と考える。
仮にそうだとして、僕の西本への想いはそんな低い次元のものではない。
「なんか、好きな女の子にいじわるする小さな男の子みたい」真由が遠ざかっていく親子連れを一瞥して、呟いた。
「そんなレベルの低い話じゃない!」思わず声を荒らげた。
「どうしちゃったの? 私にばっかり強がって…とても優しくて…そんな耕太が大好きだったのに…幼馴染で、普通の男の子の耕太が……」
「あ、そう。ありがと。で、普通ってなんだ」冷たく言ってやった。僕を非難して、協力してくれない真由が急に無価値に思えてきてムカついてきた。
「あなた誰なの?」
真由はボロボロと涙をこぼした。
そのとき、西本の前に真由で試したい衝動に駆られた。
こいつの感情で遊んでやろうじゃないか。
怒りだけじゃなくていろんな感情でだ、と。
どんな態度でどんな言葉をかけたらキレるかは知っている。喜んでくれるかも知っている。失望するのかも知っている。
僕は真由の喜怒哀楽の感情を、好きな強弱で自由自在に引き出す自信があった。
なぜなら幼馴染だからだ。徐々に興奮が増していった。
「もう……二度と私に近づかないで…」
真由は失望と怒りが混じった表情をする。
残念なことに、それ以上何も言わずに夕日を背にして去っていった。
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