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「泣いてるのか、俺は……恥ずかしいな」
そんなことないよ、と慰める声も、はっきりとした言葉にならなかった。
元気に産まれてきてくれて本当によかった。
レグルシュの涙で、気負っていたものがやっと下ろせた気がして、千歳も一緒になって泣いてしまった。
「可愛いな。ずっと見ていられる」
「そうだね。ほら、パパはここにいるよ」
と言っても目も開いていない新生児なので、反応は薄い。
レグルシュのことを「パパ」と呼ぶと、面映ゆいのか、緊張した顔になる。
千歳は何だかおかしくて笑ってしまう。
レグルシュがいろいろな表情を見せるようになったのは、一年くらい前……つい最近のことなのだ。
レグルシュと出会う前、千歳はアルファの男と婚約関係にあった。
しかし、仕事が多忙である彼とはすれ違う日々が続き、仲はすでに冷え切っていたのだ。
婚約者に家を追い出され、行き場がなかったところを、レグルシュとその甥であるユキに救われた。
レグルシュと明るくて可愛いユキとの生活は、人生で一番と思えるほど楽しくて幸せだった。
本当の家族だったら……と、レグルシュやユキに申し訳ないと思いながらも、千歳は度々そんな夢を見ていた。
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