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視線をどこに持っていけばよいのか分からず、千歳は自分の爪先を見つめていた。
「情けない話だが、嫉妬したんだ」
「え……?」
千歳と距離を空けてソファへ座ると、レグルシュは切り出した。
「お前が他のアルファに笑いかける度にそうしないでくれと思ってしまう。姉貴やユキに対しても」
「ご、ごめんなさい」
「千歳が謝ることじゃない。自分の狭量さに呆れているんだ。俺よりも千歳のことを理解して思いやることのできるアルファは、きっといる」
「れ、レグ……?」
レグルシュの他にもっとふさわしい相手がいる──そんなふうに言われて、千歳の胸は軋むみたいに痛んだ。
不安げに瞳を揺らす千歳の前に、片手に乗るほどの大きさのケースを取り出した。
ツイード生地に包まれたケースの中には、輝くリングがあった。
はっとして、レグルシュのほうを見ると、今まで見たこともないくらいに、白い肌を赤く染めている。
「俺の──生涯でただ一人の番になってほしい」
あの日、一人でお腹の中にいる斗和と一緒に、千歳はレグルシュの元を去ろうとした。
オメガという存在を嫌悪するレグルシュを、忘れようとした。
運命を諦めようとした千歳の手を引いて、望んでくれたのは今目の前にいるレグルシュだ。
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