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季節は梅雨が明け、日に日に日差しの強さが増している。
病室は冷房が適度に効いていて、快適で過ごしやすい。
「千歳。体調は大丈夫か?」
「うん。忙しいのにごめんね。いつもありがとう」
レグルシュは「気にするな」と、千歳を安心させるために笑った。
手には大きな紙袋を携えている。
「今日もまた……すごく大きいね。一人だと食べきれないよ」
「夏場だし何でも食っておいたほうがいい」
「何でもって」
レグルシュが備えつけの冷蔵庫を開く。
病院で用意してくれる食事は残さず食べているし、体調も特に悪いわけではない。
それなのに、レグルシュは面会の度に甘いものを大量に買ってくるので、冷蔵庫の中ははち切れそうなほどいっぱいだ。
千歳はレグルシュに、一緒に食べようと提案する。
そう言うと、いつも「千歳のために買ってきたのに」と不満を言うが、そのときの表情はすごく嬉しそうだ。
「……姉貴に聞いた話とは違うな」
「どうしたの?」
「いや。別に」
軽いスポンジのスフレケーキに、生クリームがたっぷりと入っている。
千歳に食べさせたいというよりは、甘党のレグルシュが食べたいのではないかと、密かに思っている。
けれど、忙しい仕事の合間にこうして会いに来てくれ、二人で甘いものを食べるのが、一日のうちで一番幸せな時間だった。
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