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アメリカに行こうと思ってて。
唐突に話し出した彼女に驚く。アメリカ?どうして。
実はずっと前から考えてて。留学、憧れだったの。来年は就活があるから、行くなら今年かなって。
就活か。もうそんなことを考える年になったのか。時の流れは早いな。
うん。短期留学。
住む家は決まってるのか?
大丈夫。大学の制度を使って留学するから、住む場所も提供して貰えるの。とても綺麗な寮だったわ。
そうか、それなら良かった。でももっと早く相談してほしかったな。
そうよね、ごめんなさい。
寮のセキュリティーはちゃんとしてるのか?今時何があるかわからないし、特に海外は治安が悪いところもあるから、心配だな。
大丈夫、しっかりした鍵も付いてるし、管理人さんも住んでるし。他にも留学生がたくさん住んでるみたいなの。
それなら安心だな。でもなかなか会えなくなるね。
そうね、ごめんなさい。私も寂しいわ。半年で帰ってくるから。
留学の前にどこかで会わない?
今週末とか空いてる?もし予定が合いそうだったら、留学前に会いたいんだけど。
いつでも大丈夫だよ。細かいことはまた連絡して欲しいな。
ええ、じゃあまたあとで連絡するわ。
彼女がアメリカに行ってしまう。家に帰ってからも落ちつかない。嫌だ。今まで毎日会っていたのに。会えなくなってしまうじゃないか。そんなこと耐えられない。遠距離恋愛?そんなもの耐えられない。嫌だ、嫌だ。耐えられない。どうすればいいんだ。そうだ、今から彼女に会いに行こう。連絡もしないで家まで行ったら、彼女は怒るだろうか。
必要なものを鞄に詰める。鞄を持って家を出て、彼女の家の近くの駅まで電車で行く。電車を降りて彼女の住むマンションまで歩く。オートロックのマンション。彼女の部屋の番号を入力して、お荷物です、と一言。可愛らしい返事とともに自動ドアが開く。エレベーターに乗る。彼女の部屋は4階。404号室。相変わらず不吉な数字だな、と思った。以前から彼女の部屋番号の縁起悪さが気になっていた。エレベーターの扉が開き、フロアに降りたつ。久しぶりに来たな。前はよくここに来ていたっけ。404号室に向かう。落ち着け、落ち着くんだ。自分に言い聞かせる。心臓の鼓動が早い。あと少しで彼女に会えると思うと、足が軽やかに弾む。401、402…。403、404。その扉の前にはすぐ辿り着いた。インターホンを押す。
♪ピンポーン…
静かな廊下に無機質な機械音が鳴り響く。開いたドアの隙間から覗く彼女の顔。鈍色に光るナイフを握り締め、ドアの隙間から差し込む。
ぐさっ。
柔らかいものを突き刺す感覚。
彼女の目が見開かれる。
だ……れ………?
彼女の口から今にも消え入りそうな、弱々しく掠れた声が漏れる。
さようなら。
いつだったか、昔読んだ小説に書いてあったことを思い出した。
刃物で人を殺す時、ただ刺して抜くよりも、死亡率を高める方法があるそうだ。
手首を捻って、彼女に刺した包丁を回す。
ぐるっ。ざくっ。ぐちゃっ。
刺した刃物を回転させると、傷口の周りの内臓が損傷し、死亡率が上がるらしい。
いつだったか、昔読んだ小説に書いてあったことを思い出した。
さようなら。天国で幸せに過ごしてください。
さようなら。私の愛しい人。
彼女の部屋のドアを閉め、ドアに背を向けて歩き出す。
さようなら。
さようなら。私の愛しい人。
いつかまた、会えますように。
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