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ひとつ言い訳をさせてほしい。
私は普段からあまり目立ちたいタイプではなく、率先して人前に出ていくタイプではない。
人見知りだし、目を合わせて話すことも苦手だ。ましてや真正面から他人に意見をぶつけたりなんてしたこともない。普段からすっぴんで高校に通っているのも、メイクが原因でクラスメイトや先生に目をつけられるのが嫌だったからだ。
かといって、メイクが嫌いなわけではなかった。
これでも私も女の子なのだから小さい頃からお人形やおままごとが大好きだし、そうなると自然な流れでお化粧にも興味が湧いてくる。
メイクは魔法だ。
一人の女の子を清楚なお姫様にも妖艶な魔女にも変身させる。私にしか着けられないオーダーメイドの仮面。
それに私は水族館も大好きだった。魚も好きだけど、特にペンギンが好きだ。
地上ではぎこちなく歩くモノクロの鳥は、水の中では果てしなく優雅に飛ぶ。それなのに水中で生きることはできないやるせなさに好感が持てた。
できれば毎日でも通いたいくらい好きな場所だが、毎日通っているとさすがに顔を憶えられてしまう。憶えられてしまえば「今日も来られたんですね」などと受付の人に話しかけられてしまうかもしれない。それはなんとなく嫌だ。
だから私は仮面を被ることにした。今の私とは程遠い、真逆の自分に。
そうして生まれたパンクメイクの私とすっぴんの私を交互に繰り返しながら水族館に通えば顔を憶えられずに済む。そう考えたのだ。
年パスに顔写真が必要なんて知らずに。
――さて。
ひとつと言いながら長々と言い訳を並べてしまったが、結局これはすべて私の頭の中でしかなく、この主張が伝わるのは他人の思考を読める超能力者か、はたまたいつの日か私の自叙伝が発売された際の読者くらいだろう。まあ目立ちたくない私に後者の線はないんだけど。
つまるところ私は、目の前の彼には何一つ伝えることができないままこう答えた。
「……私で間違いないです」
気分はさながら名探偵に追い詰められた犯人だった。
写真に写る黒魔導士のような私と目の前で縮こまるすっぴんの私を見比べて、川口くんは少しの間呆けたようにフリーズしたのち。
その整った表情を朗らかに綻ばせた。
「最高だな」
頭の中でアラートが鳴る。
必殺の笑顔で何を言ってんだこのイケメンは。
「あ、そうだ」
「ん?」
ふと何かを思いついたように川口くんは宙を見やり、それから「じゃあさ」とまたこちらを向いた。
「今度俺と一緒に水族館行かない?」
「……はい?」
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