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潮崎葉織と羽香奈は、高校卒業して社会に出てからは朝の自由時間に、片瀬海岸周辺のゴミ拾いボランティアが日課だった。義務的な感情というより、ふたりの日々の息抜きである早朝の散歩のついでに行っている。
「今日もゴミが多くって、残念だね」
「お盆休みで夜遊びして、海でお酒囲んでる人も多かったんじゃないかなぁ」
飲み食いやバーベキューの残骸と思われるゴミが多く、使用済みの手持ち花火の置き捨ても目につく。毎日変わらない活動とはいえ、夏休み中やお盆休み明けなどは平時よりも多く感じて、さすがに溜息が出そうになってしまうが……。
葉織は海岸と歩道を繋ぎ沿うようにあるコンクリートの階段に、ぽつんと置かれたカップ酒の空き容器を手に取った。そのまま持ち歩きのゴミ袋に入れようとして、母の好んだ酒のラベルであること、中に一本の煙草の吸殻があることに気付く。
……なんとなく、感じるものがあって、葉織は自分の耳元に空き瓶の飲み口を寄せた。さすがにその行動は羽香奈にも奇妙に見えて、歩み寄ってくる。
「葉織くん、どうしたの?」
「……なんでかなぁ。中から……お母さんの声が聞こえたような気がして」
「そうなんだ……気のせいじゃなかったらいいねっ」
葉織といると、こういった不思議な出来事はよくある。羽香奈はこれくらいの神秘であれば、もはや疑いすら抱かず肯定してくれる。
葉織はその空き瓶をなんとなくゴミ袋には入れないまま、片手にぶら下げて自宅へ帰った。遺影の前にあるはずのお供えのカップ酒がなぜか見当たらないことに首を傾げながら、持ち帰った空き瓶を代わりに同じ場所へ置くのだった。
葉織……あたしのところへ生まれてきてくれて、ありがとね。
あなたと同じ時間、同じ世界で長生き出来なくて残念だったけど……。
あたしはこれから、葉織の知らない、まだ見ぬ世界へ行くのだけど。二度と顔が見えなくたって、どこの世界にいたって。あたしはあなたの幸せを何より願っているからね。
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