蟲 バッタ (蟲、最終話)

4/4
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「杉咲って、案外抜けてんだな」  「そうかも」  私は返事をしながら、バッタが気になっていた。  バッタが、また近づいてくる。  このままではバッタの中に、また生き埋めにされてしまう。  岡野くんが言う。  「でも、杉咲のコスプレは、とっても良かったよ」  私は、バッタじゃなく、岡野くんを見た。  「え? 本当?」  「うん。杉咲はスタイルいいから、コスプレが映えるよ。めちゃ化粧映えも良いし」  私は褒められて嬉しかった。  でも気になっている事も聞いてみた。  「岡野くんは、コスプレしている人が、変わっているなとか思ったりしないの?」  「俺さ、コスプレのイベント行って、写真とるの趣味だから」  意外な岡野くんの趣味に、私は驚いた。  「知らなかった」  「誰にも言うなよ。女の写真が撮りたいだけの変態だと、思われたくないからな」  私は、岡野くんの知られたくない理由に、笑いそうになるのを堪えた。  「言わないよ」    岡野くんの、私を見る顔は、優しく見えた。  「今度、一緒にイベントへ行こう」  私は岡野くんを見るのを止め、顔を地面に向けた。  そして「うん」とだけ言う。  私は嬉しさと恥ずかしさで、岡野くんの顔を見られなかったのだ。  俯いたまま、ただ歩いてしまう。  岡野くんが言う。  「明日から学校に来いよ。杉咲のコスプレが良いって言っているヤツがさ、俺以外にもいるしさ」  私は精一杯の勇気を出して顔を上げる。  「ありがとう」  「それと、露出高いコスプレ写真は、別に作った鍵垢にでも上げろよ。男にブックマークされてんぞ。ヤバすぎるだろう! 何されているかァ……」  「え? ブックマークされると何かあるの?」  私は驚いて、岡野くんの顔をまじまじと見た。  岡野くんの困り顔が、私の目に飛び込んできた。  「杉咲は、本当に分からないの? 俺は杉咲のあんな写真が、男どもにブックマークされていると思うと、気が気じゃないよ」    岡野くんの困り顔を見て、私は笑う。  岡野くんの困り顔が可愛かったからだ。  それに、岡野くんは私のために、困ってくれていた。  それも嬉しかった。    笑われて、岡野くんが不満を漏らす。  「笑い事じゃないだろう。心配しているのに」  岡野くんの渋い声に、私はまた笑う。      そして、気がつく。  いつの間にか、バッタがいなくなっていたことに。    ――fin――    
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!