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「そうね。わたし、はなちゃんや三村くんに会って、自分のスタートラインを探したかったんだわ! 文句をいいながらも、現実の世界では今いる場所から動けなかったの。だから、この夢を見て、夢の中で自分を勇気づけようとしたのよ!」
そう言った途端、郁乃を取り巻く食堂の風景が、ゆっくりと揺れ出した。
目の前の料理も、次第にかすみ始めた。
「郁ちゃん! 目覚めようとしているみたいだよ! 急いで駅へおゆきよ。もうすぐ列車がやって来る。それにきちんと乗るんだよ! そうすれば、きっといい旅を続けられるからね! さあ、早く!」
郁乃は、割烹着や三角巾をおかみに返し、大慌てで店を出て駅へ走った。
駅舎やホームもゆらゆらと揺らめいていたが、列車はドアを開けて郁乃を待っていた。
(ありがとう、はなちゃん! ありがとう、三村くん!)
そう心の中でつぶやいて、郁乃が車内に飛び込むと、ぐるりと世界が一回転した。
郁乃は、座席に腰を下ろすや、そのまま意識を失った――。
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