アイスレモンティーと独白と告白。

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アイスレモンティーと独白と告白。

 想定外の出来事により少し時間がかかった。素知らぬ顔で席へ戻る。言っておくが漏らしたわけではない。俺の全身は綺麗だ。何頼んだの、と綿貫に訊くと、アイスレモンティー、と弾んだ声で答えた。 「オシャレじゃん」 「だろ?」  俺達のやり取りが聞こえたのか、近くにいた店員さんが吹き出した。いいじゃん、アイスレモンティー。オシャレじゃないですか? 「しかし結構面白いな、ウィンドウショッピング。色々見られて楽しいわ」  そう言うと、途端に綿貫の表情が無くなった。すっと目を逸らす。気のせいか? いや違う。付き合いの長い俺にはわかる。 「何で今、目を逸らしたの」  端的に指摘をする。綿貫はもじもじしていたが、水を一息に飲み干した。大きく息を吐く。そして、ごめん、と手を合わせた。 「俺、ウィンドウショッピング、していない」  一応首を捻る。 「店なんてどうでもいい」  とんでもない暴言だ。 「俺の目的はショッピングモールへ来ることで、しかもショッピング自体は目的じゃない」  顔を寄せる。親友の目を真っ直ぐに見詰めた。 「説明しろ。それなら何で此処へ来た。お前が言ったんだぞ。そうだ、ショッピングモールへ行こうって。ガッツポーズまで作ってさ」  当然浮かぶであろう質問をぶつける。綿貫はスマホを取り出し画面を見せた。橋本とのやり取りだ。 『ごめん、今日は高橋さんと出掛けている』 『それは残念。ところで何処にいるの?』 『三駅先のショッピングモール』  送受信の時間を見る。一時十三分。 「つまりお前はデート中の橋本と高橋さんを覗こうと此処へ来たわけだ」 「覗きじゃない。冷やかしだ」 「同じだバカ。最低の行為だぞ。そんなものに俺を巻き込むな」  語気を荒げる俺に、ごめん、と再び手を合わせた。 「でも一人で来て、万が一鉢合わせたら気まずいじゃん。夏休みに一人でモールに来ているよ。綿貫って寂しいね。そんな風には思われたくないっ」 「変なプライドがあるなら最初からやめろ。覗きなんてするな」 「覗きじゃない。デートをしている二人を遠くから見て、こっちがいるとも知らずにイチャつく様を確認して、やってますなぁ~ってほくそ笑みたい」  頭を抱える。なんてことを言い出すのか。その時、お待たせしました、とさっき吹き出した店員さんが飲み物を持って来た。そして無表情で去って行く。今の話を聞かれていたなら素っ気なくなるのも仕方無い。アイスコーヒーを一口啜る。お前さぁ、と口を開く。 「そうは言うけど、いざ目の当たりにしたらお前は泣いたと思うよ」 「何で」  武士の情けだ。せめて声は潜めてやろう。 「だってお前、高橋さんのことが好きだったじゃん」  そう言うと慌てて身を乗り出し俺の口を塞ごうとした。邪魔、と払いのける。すると今度は人差し指を自分の唇に当てた。 「田中、駄目だろ。本人がいるかも知れない場所でそういう不用意な発言をしたら」 「だから小声にしただろ。それにもし、仮に本人達がこの場にいたら、さっきまでのお前の発言がもう駄目だよ」  きっちり正論で叩き斬る。確かに、と口を押さえる綿貫を手招きした。 「一応小声で、な」  口を押さえたままアホは頷いた。テーブルに手を付き此方へ顔を突き出す。しかし危なっかしいので隣に座り直した。耳元に囁く。 「綿貫は高橋さんを好きだったじゃん。でも高橋さんは橋本を好きになって、二人は付き合い始めた。あいつらがデートしている現場なんて見たらお前は絶対に落ち込む。何で高橋さんの隣にいるのは俺じゃないんだって」  俺の指摘に、そんなことない、と唇を尖らせた。 「俺は純粋に冷やかした」 「それはそれでどうかと思う」  キッパリ言い放つと綿貫は項垂れた。力なくレモンアイスティーを飲む。俺もアイスコーヒーを啜った。二人揃って黙り込む。店内に静けさが戻って来た。 「区切りにしようと思ったんだよ」  どのくらい間が開いただろう。ぽつりと綿貫が呟いた。綿貫の口元に耳を寄せる。だけど綿貫の声量は普通のままだ。 「取り敢えず小声にしたら?」  しかし、いいんだ、と力なく首を振った。あーあ。 「二人がデートしているところを見てさ、本当に付き合っているんだなって折り合いをつけたかった。勿論、学校から一緒に帰るところは何度も見ているけど、何だろう。夏休みにプライベートで遊んでいる姿を見たら、カップルなんだって思い知らされる気がして。それならむしろ見届たかった。だから此処へ来た。俺さ、まだ高橋さんを好きなんだ。明るくて、優しくて、可愛くて。俺にも気さくに話し掛けてくれてさ。まさか橋本と付き合うなんて想像もしていなかったし、凄くショックだった。でも諦めなきゃいけない。これは俺の勝手な片思いだから。何より二人に悪いもん。何で高橋さんと付き合っているんだ。何で橋本を好きなんだ。そんな考え、捨てたい。親友と、好きになった人に、これ以上悪い感情を向けたくない」  とつとつと語ってくれた。そうか、としか言えない。悪かったな、と綿貫は不意に笑顔を浮かべた。痛々しい。 「田中まで巻き込んで。ごめん」 「別にいいけど。それで、諦めはつきそうか? 二人は見付からなかったけどさ」 「つけるよ。話したらすっきりした。すぐに切り替えられるわけじゃない。でも今日みたいな真似はもうしない」 「そうか」  その時、店員さんが綿貫にお冷を注いでくれた。いいタイミングで来てくれる。今度は深々と頭を下げて去って行った。お気遣いありがとうございます。どう考えても話を聞いているのは引っ掛かるけど。
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