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橋本と高橋さんがいかに素晴らしいかを語ろう!
あーあ、と綿貫が伸びをした。
「今頃楽しくやっているんだろうな」
「まあ、あの二人は仲良しだからね」
「部活が無い時は必ず一緒に帰っているし。あと、クラスも一緒なのに誰もからかったり冷やかしたりしないの。人柄と日頃の行いのおかげだよなぁ」
「橋本は口数こそ多くないけど真面目だし、意外と周りに気を遣って見えるからね」
「しれっとクラスの仕事を片付けたりして、暇だったから、とか手が空いていたから、なんて言うの。掲示の貼り替えとかプリントの配布とか、何故かちょこちょこ働いているんだよ」
「そういうところ、人は案外見ているよなぁ。あいつは何も考えていないけど。本当に暇だっただけだろ」
「それがまた裏表無くていいのよ」
「そんで、高橋さんは言わずもがなのいい人でしょ」
「そうなのよ。クラスのカースト最上位のグループに所属しているけど、そういうのをあんまり気にせず誰とでも普通に接してくれるんだよね」
「凄ぇな。俺はよくわかんないけど、女子ってそういうの厳しいんじゃないの?」
「俺だってわかんないよ。でもそう聞くよな」
「そんな中で綿貫みたいな奴にも優しく接してくれたのか。うん、間違いなくいい人」
「どういう意味だよ、俺みたいな奴って。そりゃあ俺はクラスのカースト上位勢ではないけど、皆とそれなりに仲良くしているよ」
「お前のクラスメイトは全員優しい」
「失礼だなぁ」
「その中でも高橋さんは優しかったのね」
「美術の時間に絵の具が足りなくなったら真っ先に気付いて分けてくれた。音楽の授業で合唱をした後、完全に地声で歌っちゃってるから合唱の歌い方で調べてみるといいよってアドバイスをくれた。調理実習で一緒になった時、俺が間違えて出汁を全部捨てたら皆が怒る中、各班を回ってちょっとずつ出汁を貰って来てくれた。滅茶苦茶優しいんだ」
その言葉に、そうだね、と曖昧に頷く。俺の頭の中では「お世話係」という単語が点滅していた。
「とにかく、素敵な二人だから末永く幸せに過ごして欲しい。ちゃんとそう願うよ」
そうして綿貫はアイスレモンティーを飲み干した。
「綿貫もさ。本当にいい奴だよ。覗きという手段はともかくとして、ちゃんと気持ちの整理をつけようとしたんだから。その上で二人の幸せを祈れるなんて、大したもんだ。その内いい人が見付かるよ」
俺の言葉に、ありがとう、と頭を掻いた。
「じゃあモールをもう少しぶらつくか。出会いが転がっているかも知れないし」
綿貫が勢いよく席を立つ。俺はまだアイスコーヒーを飲み終わっていない。もう少し待て、と椅子を指さした。早くしろよと急かす親友を頬杖をついて眺める。いいことあるといいな、綿貫。無くても俺はずっと親友だからな。
「あ、じゃあトイレを済ませておこうかな」
しかし俺は動かない。綿貫は席から出られない。
「ここの店、トイレだけは滅茶苦茶汚かったから後で済ませた方がいいよ」
やれやれ。
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