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 しろやぎさんからおてがみついた。  くろやぎさんたらよまずにたべた。  しかたがないのでおてがみかいた。  さっきのてがみのごようじなあに。 「なんなんだよ……ったく……なにやってんだよ……なんのつもりだよ!」  違和感を目の当たりにしているが、もがくように手足をばたつかせ、逃げ出したくて、涼子が歌って踊るさまを冨野は必死に思い出そうと、記憶を巡らせる。  容姿に恵まれていない娘の涼子を、冨野は実の子供であるにもかかわらず、どちらかと言えば避けているが、涼子は気づいていないようで「パパ、パパ」と慕って甘えてくる。  もっと可愛かったら、もっとキラキラしていたら涼子にいろいろ買ってやったり、甘やかしているだろうに、残念だなと見下しながらそれなりに冨野は接していた。  対外的にはわが子ではあるため涼子を大事にしている、優しくしている「ふり」はもちろん欠かさないけれども、本心としては並んで歩きたくはないし、街中で「パパー!」と大きな声で呼びかけられたら、非情ではあるけれども他人のふりをしてしまいたくなる。  彼自身、冨野自身は年齢よりも「若く見える」としばしば言われるし、自分でも身ぎれいにしているから、こんな若々しいパパの娘がこれかと周囲の、見ず知らずの人々に嘲笑されてしまうような状況を味わいたくないからだ。  酷い父親だと我ながら罪悪感は拭えないところではあるけれども、やはり、涼子は冨野にとって「期待外れ」や「失敗作」など、マイナスイメージを持つ言葉が常につきまとう。  だからこそ、涼子には無理をしてでも学力をつけてほしいし、きちんとした会社に勤めてほしいと望んでしまう。  内面だけでも身ぎれいにしておけば、自慢できるスキルがあれば、そこでようやく冨野にとって「自慢になる家族」としてイメージを切り替え、優しく接することができるからだ。  しょうもない仕事や、職種を得たなら家を追い出すことも、冨野は思慮に入れている。  自分が思い描く理想の家族や生活に、そんな存在は必要ないからだ。  むしろ邪魔でしかないし、足手まといだ。  涼子に対して厳しくも優しい母親である冬香は「可愛い子ね」とひいき目で言うが、冨野は表向きでは同意しているけれども「どこが可愛いんだ、あんな石ころみたいなごつごつした顔しやがって」と、心の中でこっそりと見下していた。
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