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だから「うん」とか「ああ」とか、当たり障りのない生返事で常に、冬香をごまかしている。
涼子は妻である冬香の母親、冨野にとっては義母の特徴であるやや丸く大きい鼻をそっくり受け継いでしまった。どんと丸く中心で幅をきかせるそいつが滑稽で、全体のバランスを崩してしまっている。
しかも幼稚園に通うようになってから鼻炎もちであることが判明して、しょっちゅうグズグズと鼻水をすすっていたり、手の甲で拭ってしまう癖があった。
だから四六時中、鼻の頭はてかてかと光り、赤くなっている。
くしゃみと、赤くなった鼻の頭。
お世辞にも可愛いとは言えないそれがたまらなく不衛生で、汚らしい。
それだけではなく、すらりとしている今どきの子供とはちがい、涼子は冬香の父親、冨野にとっては義父とよく似たごつごつと骨太で浅黒い肌をし、小柄で、ずんぐりとした岩のような体つきをしている。
物心ついたときからあまり外では遊ばず、中学と高校は帰宅部に属していたため授業以外に運動する機会もないうえに、予備校通いやカラオケに時間を費やしていたせいで細身な冨野と、顔立ちはもちろんスタイルも整った、若いころは読者モデルもやっていたという経歴を持っている涼子のあいだに生まれた子供とは、どうしても思えない。
どちらかと言えば、涼子の祖父母が持つ外見をうけついでしまっているゆえに、残念な結果となってしまった。
見れば見るほど、冨野としては、納得がいかない。
二人の子供なら、もっと可愛く生まれてくるはずじゃないか。
だからこそ、どこか避けてしまう。
避けてしまうことは、仕方がないんだ。
だって、ちっとも「俺たち夫婦に似ていない」のだから。
心地よい歌声が、残酷なほどに冨野を現実へと引き戻す。
冬香が見せてくれた、涼子がお遊戯会に着せる衣装を見て「不細工な子が、衣装だけおしゃれだったらアンバランスで笑えるし、みっともないよなぁ」なんて言わなければよかったと、ひそかに後悔する。
上が白いパフスリーブ、下はふわふわとしていて、ピンクのリボンやライラック色の蝶のワッペンがついた黒のチュールスカートという清楚と可愛さを合わせた衣装では、涼子にはおおよそ縁遠いデザインだと思い、率直な意見をつい冬香に対して口を滑らせるような形で述べてしまった。
そのせいで、リビングのソファーに毛布一枚で寝かされ、肩が凝っている。
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