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「へえお客さん、詳しいですね」と、マスターにも感心されてしまった。
「澄香はどういうタイプの酒が、好きなの?」
「うーん。もちろん肴にもよるけど、口当たりの良い甘口よりもきりっとした辛口のほうが好みかな」
「さすが通だな」
「大学3年で日本酒に出会ってから、あらゆる機会を通じて飲み比べてきたので。でも、この店にあるような希少なお酒はなかなか飲めないけど」
注文したお酒がカウンターに置かれた。
盛りこぼしでグラスの縁まで注がれた冷酒を口にする。
お米の旨みと香りがしっかり感じられる、辛いというよりはすっきりした味。
うーん、美味。
「この世の幸せを全部集めたような顔だな」
お通しの菊花とささみの塩麹和えを箸でつつきながら、伊吹さんがわたしを見つめて、そんな感想をこぼす。
「うん、この、最初の一口が一番幸せかも」
「ふーん、俺といるときよりも?」
また、そんな困らせるようなことを言ってくる。
「比べられないです。そんなの」
ちょっと頬を膨らますと、いつもの笑みを浮かべている。
「俺は満足そうな顔をしている澄香を見ているときが一番幸せだよ」
またまた、そんな甘い言葉を臆面もなく。
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