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第9章 新生活、はじまる
その週の金曜日の夜。
わたしは伊吹さんと銀座の日本酒バーを訪れていた。
雑居ビルの地下にあり、席はカウンターのみで、これまで伊吹さんと行った店と比較すると、ずいぶん庶民的な店構えだった。
でも、席につき、お品書きのラインナップを見て、わたしは感嘆の声をあげた。
飛露喜、十四代「龍泉」、亀の翁、などなど。
さらに季節限定のラベルが貼られた、希少なお酒もずらりと並んでいる。
「ええ? こんなお酒もあるんだ。すごい!」
「なんでも好きなものを頼めばいい」
「あ、春鹿の超辛口がある。とりあえず、これにしようかな。このお酒、昔ながらの製法を守っている奈良の酒蔵で作られていて。奈良のお酒は戦国時代、織田信長のお気に入りだったそうで、当時は『南都諸白』と言われて珍重されていて……」と、つい、聞かれてもいないのに蘊蓄を披露してしまう。
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