第1章 自分史上、最悪の夜

2/13
前へ
/209ページ
次へ
 わたしの名前は友永澄香(すみか)26歳。  大学卒業後、酒類メーカーの三光ビールに勤めて、今年で3年目の営業事務員。  今日は朝からついてなかった。  会社勤めで初の寝坊をして、慌てたせいでブラウスのボタンを掛け違えていたのに気づかず、そのまま電車に乗ってしまったり。  担当者の機嫌が悪くて、自分のプレゼンの失敗をわたしの資料のせいにされたり……  極めつきは、つい一時間ほど前、先月、付き合いはじめたばかりの同じ部の先輩に振られてしまったことだった。  暗い店内を縦横に駆けめぐるミラーボールの反射光に目がくらみ、大音量のヒップホップに脳内を占拠される。  でも、そのぐらいの刺激が今の自分にはちょうどいい。  わたしはバーカウンターのスツールに腰かけて、ジンフィズをオーダーした。  振られた相手の名前は伊藤勝也。  わたしよりひとつ年上の27歳。  同じ部に勤める、営業だ。  見た目爽やか系イケメンで、部内に限らず、部外の女子社員のあいだでも人気がある。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6652人が本棚に入れています
本棚に追加