第3章 魔法は解けるものだから

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 酒飲みには、どうしたって、あらがえない誘惑だ。  日本酒ほどではないけれど、ワインにも目がないほうだし……  今日を逃したら、こんな機会には、もう二度と恵まれない。  断ったら、後で死ぬほど後悔しそう。  誘いを受けないことを選択しようとしていたほうのわたしは、完敗の白旗を上げた。 「はい……ぜひ、ご一緒させてください」 「よし。じゃあ、急ごう」  彼は嬉しそうに言い、スマホでその店に電話をかけてから車を発車させた。 ***  抜け道をうまく使い、5時過ぎに目的地に到着することができた。  日の入りまで、まだ1時間ほどある。  レストランは海沿いにあり、店内の窓からは海しか見えず、まるで船上にいるかのよう。  けれど、今日は土曜日。  しかも、これほどのロケーションでおいしいと評判の店なのだから、当然のごとく満席だった。  諦めて、別の店に行くのかなと思っていたら、内田さんは厨房を覗いて、2人のコックさんに指示をしている、オーナーシェフらしき五十代ぐらいの男性に声をかけた。 「山さん」  その人はすぐに内田さんに気づき、こちらにやってきた。 「伊吹さん、お久しぶりです」
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