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「急にお願いして悪かったね」
「そんな気遣いいりませんよ。あなたの頼みなら。陽子、伊吹さんが見えたよ」
彼が声をかけると、黒シャツに焦茶色のお洒落なギャルソンエプロンをしたポニーテールの女性が足早にこちらに向かってきた。
「お席、用意しておきましたよ。さあ、どうぞこちらに」
そう言って、先に階段を上っていった。
そこは小さな個室だった。
海に面した、白くペンキが塗られた木枠の窓際の席に、カトラリーやお皿が、すでにセッティングされていた。
席について少しすると、さきほどの店員さんが緑色のシャンパンボトルを運んできた。
「ここのオーナーシェフの山田さんは以前、うちの厨房にいた人でね。こちらの陽子さんと結婚して、ここに店を出したんだ」
「そうなんですね」
「だから、俺は彼の料理で育ったようなものでさ」
陽子さんは慣れた手つきでシャンパンをグラスに注ぎながら、わたしに話しかけてきた。
「とても素敵なお洋服をお召しですね。何かの記念日ですか?」
シャンパンがシューっと魅惑的な音とともに泡を立ちのぼらせている。
「いえ……」
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