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違うんです、と言おうとしたら、内田さんがわたしを制した。
「そうだよ、俺たちが出会った記念日」
そう言って、シャンパングラスを手に取った。
「まあ、それは素敵。では、どうぞごゆっくり」
彼女は軽く礼をして、下がっていった。
「なんで、あんな誤解されるようなこと、おっしゃるんですか」
当惑してそう問うと、彼は「だってそうだろう。出会ったのは……あっ、昨日か」と笑った。
あんまり楽しそうに笑い声を立てるので、わたしも釣られて笑ってしまう。
「でも」
「そんなことはいいから、早く乾杯しよう」
彼に促され、グラスを合わせて一口飲み、その美味に目を見張った。
「おいしい」
わたしはごくんと喉を鳴らして、すーっと喉元を降りてゆく極上の味に酔った。
自然と顔がほころんでゆく。
「こんなにおいしいシャンパン、はじめてです」
彼はグラスを口に持っていき、目線だけをわたしに向けた。
「うん、たしかにうまいな。とっておきを出してくれたみたいだ」
シャンパンを飲み込んだときに動く、彼の喉仏につい目がいってしまう。
そんなところまで魅力的だなんて、本当、困ってしまう。
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