第3章 魔法は解けるものだから

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「夕日、間に合って良かった」  窓の外を見ると、太陽は空を茜色に、海を黄金色に染めながら沈んでゆくところだった。 「綺麗……」  しばらく、言葉も忘れて、ふたりで見入った。  彼もこの絶景に心から感動していることが伝わってくる。  でもどうして、言葉を交わしていないのに、この人の気持ちが手に取るようにわかるんだろう。  親や兄弟といても、そんなこと感じたことがないのに。   「今日の夕日は特に美しいですよ。お二人を歓迎しているみたい」  陽子さんが、そう言いながら、最初の料理を運んできた。  食事は創作フレンチのフルコース。  テーブルにサーブされたアミューズは卵の殻を器にした、見た目も愛らしい一品。  センスも味も最高で、続く料理への期待がいやでも高まっていく。    次に出てきた、伊勢エビのスープも絶品で、わたしの気持ちはどんどんほぐれていった。 「本当においしいです。今まで食べたフレンチの中で最高かも。あ、言うほど食べに行ってはいないですけど」  わたしの言葉に、彼は嬉しそうに顔をほころばす。 「気に入ってもらえて、連れてきた甲斐があった」  
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