第4章 再会の日は雨

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 一緒にいるときの空気感がまるで違った。  その人にも、日本酒を造るのが夢だと話した。  でも彼はそんなことできるわけがないだろうという顔で、「すごいね」とひとこと。  それ以上、話を訊こうともしなかった。  内田さんが、自分のことのように目を輝かせて、頷きながら話を聞いてくれたのとは大違いだった。  内田さんの前では、のびのびと話をすることができた。  それは、彼がわたしの存在をまるごと認めてくれているのが伝わってきたから。  内田さんといたときのわたしの心は解放感に満ちていて、細胞のすみずみまで新鮮な空気が行きわたっている気がしていた。  そんな相手と知り合えたことは、自分が思うよりもはるかに貴重な機会だったのだと、改めて思い知らされた。  そう気づいたところで、本人と会う機会はもうないだろうけれど。  当面、恋愛とか結婚は諦めたほうがよさそうだ。  内田さんを超える人に出会えるとは、とても思えないから。  もっと長い時間をかけて、少しずつ彼のことを過去の思い出にしていければ、次があるかもしれない。  でも、今すぐ、他の人と付き合うのは無理だ。  わたしのなかの内田さんの存在が、こんなにも大きいうちは。
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