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「まったく気にする必要はない。実に良いタイミングだったんだよ。きみに話があったから。明日、第一営業部を訪ねようかと思っていた」
「へっ?」
なんだろう。話って。
玄関を出ると、車寄せにはすでにベンツが停まっていた。
例のごとく運転手さんがさっと降りてきて、後方のドアを開けてくれる。
後部座席に乗りこむなり、わたしは彼に尋ねた。
「あの、それで、話ってなんですか?」
わたしの警戒心を察した彼はふっと笑った。
「はは、引き続き、きみを口説きたいところなんだけど、今、したいのは仕事の話。用事があるなら日を改めてもいいが」
「いえ、大丈夫ですけれど。仕事……のことですか?」
会社顧問が平の営業事務のわたしに、なんの話があるというんだろう。
めちゃくちゃ気になるんだけど。
「ああ。ところで食事は済んだ?」
「いえ。まだです」
「俺もまだ。じゃあ、飯を食いながら、ということにしないか」
「はい」
わたしの返事に笑顔で答えると、彼は運転手さんに行先を告げた。
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